― 橘本の天狗さん ―


みかんの木ぃを
初めて植えたちゅう所にな、
福勝寺ちゅうお寺があるんやしてよ。


本堂の裏ぃ回っていったら、
大きな杉の木あるわしてよ。


この木に、むかし大きな天狗さん
住んじゃあったんやと。


そいでも冬は寒かろ、
近所の家の倉ぃ住まわせてもうてんたんやと。


ほいたら、
そこのお嫁さんええ人でね、
天狗さんにお餅やお酒やら、
ようさんくれたんやと。


天狗さんは、
もらうばっかりやったら悪いよ
ってちゅうて、
なんぞお礼できることないかて尋ねたら、


お嫁さん
「そんなもんええよ、気にせんといて」
ちゅうんやと。


そいでも
「もらうばっかりやったら気やすまな」ちゅうたら、


お嫁さん
「それやったら、うちのおじさん熊野ぃ連れっちゃってよ」てゆうたんやと。


「おじさん、若い時分は働くばかりで
よう行かんかったし、
年とってからお参りしよと思ってたら、
寝たきりになってしもたんでよぉ」
ちゅうんやと。


天狗さん
「そんなんお安いご用じゃ」ちゅうて、
おじいさん背中ぃ乗せて熊野ぃお参りに連れっちゃったんやと。


よかったしてぇ。